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【給与所得者様向け】給与明細から世の中の仕組みを学んでみよう

サラリーマンの皆様、日々お勤めお疲れ様です。

ところでサラリーマンにとって最も大事なお給料の明細。中身をきちんと確認したことはありますか?

日々の業務が繁忙で、週末は家族サービスに追われて…貴重な自由な時間を使って小難しいおかねの話など考えたくない。そんな人も多いのではないでしょうか。

このBlogを覗いて頂けたのも何かの運命。自分の働いて得たおかねが何に使われているのか、これを読んで是非一度理解してみてください。日本の社会保障制度がよく分かるようになると思います。

 

 

1.給与明細には何が記載されているのか

給与明細とは、給与の支給額や控除額といった給与の計算根拠を表示した書類のことです

法令上の義務として会社は従業員に対し給与明細を発行する義務を負っており、その中には3つのことが記載されています。

(1)支給額

支給額は「額面」と呼ばれるもので、基本給や残業代、住宅手当や通勤手当、役職手当など会社で規定されている各種手当を合算した金額です。一般的に年収と言われるのは、この支給額の合計額(ボーナス等をこれに加算した金額)のことを言います。

自分のお通帳に振り込まれる金額よりもかなり大きな金額になっているのではないでしょうか?実際にはこの金額を企業は負担しているということになります。

 

(2)控除額

控除額に該当するものは、以下の通りです。

・健康保険(基本・特定)

介護保険

・厚生年金

・労働保険

所得税

・住民税

・その他会社ごとの控除(持ち株拠出金、組合費、団体扱い生命保険等)

社会保険や労働保険、税金に関するものがメインとなります。多くの方は小難しくてよく分からないというのが正直なところでしょう。

 

(3)差引支給額

差引合計額とは、いわゆる手取り。つまり実際に受け取る金額のことで、「(1)支給額−(2)控除額」を指します。尚、労働基準法第24条では、「賃金は、通貨で、直接労働者にその全額を支払わなければならない」と定められています。銀行振込は労働基準法第24条但し書きにより、特別に認められています。

 

 

2.何が控除されてるの?

給与明細の中で最も分かりにくく、かつ世の中の仕組みを理解する上で重要なのが控除額の中身です。なぜこれだけの金額が差し引かれるのか?一体何に使われているのか?その使い道は大きくは社会保険、労働保険、税金、その他の4つに分類できます。

(1)社会保険

医療保険

サラリーマンの方における医療保険制度とは健康保険(自営業者の方は国民健康保険)のことを指します。 そして雇用主が法人の場合は原則として強制加入することになっております。

健康保険は、業務外の病気やケガなどを保証する制度です疾病負傷時に一部負担金のみ(2割or3割)で診察・投薬や手術・入院が受けられることはご存知かと思いますが、それ以外にも高額療養費制度や傷害手当金、出産時における一時金や手当金、死亡時における埋葬料も健康保険によるものであります。詳細の内容については全国健康保険協会(主に中小企業の方が加入)のHPを添付致しましたのでご参照下さい。

 

保険料は「標準報酬月額及び標準賞与額×健康保険料率」となります。

※健康保険料率は、中小企業が主に加入する協会けんぽについては都道府県単位で保険料率が適用されます(10%前後)。大企業が加入する組合健保については3.0〜13.0%の中で健康保険組合が自主的に決定しています。

※一般保険料率は基本保険料率と特定保険料率から成り立っており、特定保険料率とは前期高齢者支援金、後期高齢者支援金、退職者給付拠出金及び病床転換支援金等に充てられるものであります。

尚、保険料は労使折半(事業主と被保険者が折半して負担)のため、上記金額の約半分が給与から控除されることとなります。

また余談ではありますが、健康保険制度は74歳までで75歳になると健康保険から脱退し、すべての人が後期高齢者医療制度の被保険者となります(財源については概ね医療保険4割・公費5割で賄われています)。

 

介護保険

介護保険は、高齢で介護が必要となった場合の費用に備えるための公的な保険制度を言います。介護保険料を負担する代わりに、介護保険に加入している人は要介護認定を受けると1割(所得によっては2割・3割)で所定の介護保険サービスを受けることができるものです。

65歳以上を第1号被保険者、40歳以上65歳未満の医療保険加入者を第2号被保険者と区分。39歳までは未加入期間であり、保険料はかかりません。保険料については第2号被保険者は、各医療保険者がそれぞれの医療保険料に上乗せして徴収。「標準報酬月額及び標準賞与額×介護保険料率」となります。

協会けんぽの場合、保険料率は1.80%(令和3年4月時点)となっております。

尚、介護保険料についても労使折半のため、自己負担額は上記金額の約半分となります。

余談になりますが、介護保険の財源は介護保険料で約50%を確保し、残りについては国と都道府県、市区町村からの公費で賄われます。市区町村が保険者となり、介護サービス事業者からの請求により自己負担部分以外の費用(7割〜9割)が支払われます。

 

③年金保

金保険の天引きは老齢時の公的年金受給のイメージが強いかと思いますが、老齢、障害、死亡の3種類の備えとなっております。受給事由に応じ、それぞれ一定要件を満たした時に支給されることとなっています。

・老齢給付→支給開始年齢に達した場合(老齢基礎年金・老齢厚生年金)

・障害給付→病気や怪我によって障害が残った場合(障害基礎年金・障害厚生年金

・遺族給付→被保険者が亡くなった時、生計維持されていた遺族がいる場合(遺族基礎年金・遺族厚生年金)

 

尚、現在日本の年金制度は4階建てと言われております。1階部分が国民年金で、20歳以上60歳未満のすべての人が加入する基礎年金。会社員や公務員などは2階部分が厚生年金保となっており、この部分についても国が強制的に行う公的年金部分に該当します。3階部分は企業年金と言われ、様々なものから企業が任意で導入しています。具体的には、厚生年金基金確定給付企業年金確定拠出年金(企業型)などが該当します。4階部分はどの立場の者も加入できる、生命保険会社や損害保険会社などが行う個人年金となります。ナビナビ保険さんの図解が分かりやすかったのでリンクを添付しておきます。

www.navinavi-hoken.com

 

 

肝心の保険料ですが、第2号被保険者は給料と賞与から厚生年金保険料が天引きされます。尚、国民年金の保険料は厚生年金保険から一括して拠出されているため、厚生年金保険の保険料以外に負担する必要はなく、国民年金としての個人的な納付は不要となっています。

厚生年金保険料は「標準報酬月額及び標準賞与額×18.30%(2017年9月〜)」となっており、これを労使折半にて負担します

 

(2)労働保険

広義の意味での社会保険に該当しますが、労働保険も天引き項目の一つに挙げられます。労働保険には労働者災害補償保険(労災)と雇用保険の2つがあります。

労働者災害保険(労災)→労働者を使用するすべての事業者が強制加入。正社員はもちろん、アルバイトやパートタイマー、外国人労働者などすべての労働者が対象となる。業務上及び通勤途上における病気、怪我、障害、死亡などが給付事由となる。業務災害については業務遂行性と業務起因性の両方の要件を満たしたときに認められる。

※業務遂行性とは、労働者が労働契約に基づき、事業者の支配下にあることを指す

※業務起因性とは、労働者が従事している業務やその業務に付帯するこうちが原因で事故が発生し、その事故によって傷病にかかったことを言う

雇用保険→給付の中心は、失業者給付である。そのほか、早期に就職した場合の就職促進給付うや、失業を防ぐ教育訓練給付、雇用を継続するための雇用継続給付がある。

労働保険料は、労働者に支払賃金総額に保険料率(労災保険率+雇用保険率(一般の事業の場合0.9%))をかけた金額となります。労災保険部分については全額事業主負担。雇用保険については自己負担部分は0.3%・事業主負担部分は0.6%となります。

 

(3)税金

 

所得税

一般的なサラリーマンは源泉徴収により所得税国税)を納税します。

納付金額は国税庁が発行する源泉徴収税額表に基づき、社会保険料等控除後の給与等の金額や扶養親族等の数により決定されされます。

しかし、徴収された税額の年間合計額は、1年間の給与収入について納めなければならない税額(年税額)と一致しません。これは扶養控除等の認識時期の違いや、生命保険料控除等が年末調整でしか反映されないことが原因で、このような不一致を年末調整で精算することになります。 

②住民税(個人住民税)

 住民税は市町村民税と道府県民税に分かれています。所得によって納税額に差がある所得割額と同じ自治体に住む納税者が同額を納税する均等割額の合計額が個人住民税の納付額となります。算出方法は少し複雑なためここでは割愛します。

 

ふるさと納税を活用すると所得税及び住民税が控除できますので、こちらについては改めて別の機会を設けて確認していきたいと思います。

(4)その他会社ごとの控除

①組合費

所属する企業に従業員組合がある場合は、一般的に活動費用として組合費が控除されます。

②生命保険

所属する企業で団体割引を適用した生命保険に加入している場合、月額が直接控除されます。

 

3.事業主負担分って何?

給与明細には支出と控除以外に、事業主負担分が記載されていることがあります。これは所得の計算上直接関係してくるものではありませんが、一個人に対し実質的に企業が負担している費用部分と言えます。つまり、「支給金額に加え事業主負担分まであなたに対して給与を支払っているのですよ」といったメッセージとも捉えられるでしょう。

その中で年金制度の3階部分にあたる企業年金がここに該当してきますが、企業が任意で導入していることからその内容はまちまちとなります。以下、その一例を紹介します。

(1)確定給付企業年金(DB)

従業員が受け取る「給付額」があらかじめ約束されている企業年金制度です。会社が運用の責任を負い、運用結果が悪ければ、企業が不足分を穴埋めします。現在、最も普及している制度でもあります。当人分の企業年金として記載の金額が運用されていることを意味します。

(2)確定拠出年金(企業型DC)

企業が掛金を毎月積み立て(拠出)し、従業員(加入者)が自ら年金資産の運用を行う制度です。従業員は掛金を元に、金融商品の選択や資産配分の決定など様々な運用を行います。そして定年退職を迎えた際、積み立ててきた年金資産を一時金(退職金)、もしくは年金の形式で受け取ります。ただし、積み立てた年金資産は原則定年まで引き出すことはできません。こちらも当人に拠出されている金額が記載されています。

(3)労働保険

前述の通り、労災保険部分については全額事業主負担。雇用保険については自己負担部分は0.3%・事業主負担部分は0.6%となるため、事業主負担部分がここに記載されます。

 

(4)健康保険・厚生年金

これも前述の通り、健康保険と厚生年金については労使折半のため、企業側で負担する金額がここに記載されます。

 

最後までご購読頂きありがとうございました。

さあ、今日は一度給与明細を持ち帰ってじっくりと眺めて見てはいかがでしょうか?

自己負担部分の多くが社会保証制度のために利用され、いざという時の備えとなっていること。また、その多くの部分を会社が負担してくれているという理解につながった方は多いのではないでしょうか。

きっと、会社に対する感謝の気持ちが増し、明日から一層業務に邁進することができることでしょう。

では、ハッピーなマネーライフを。